胃癌と外科治療
(その2:胃癌と食事、環境因子の関係)
外科医:渋谷 均
胃癌は種々の発癌因子により発症しますが、発癌に際しそれを助ける助長因子と抑制しようとする抑制因子の存在があります。発癌因子として知られるものにニトロソ化合物があります。この物質は亜硝酸塩とアミン類が胃のなかで胃液の作用により作られるものです。亜硝酸塩は発色剤として使用されておりマカロニ、ソ−セ−ジ、ハム、イクラなどに含まれています。またアミン類はカニ、イカ、サバ、イワシ、カキ、シジミなどの魚介類に含まれており、焼いた場合に増量することが知られています。これらの食物を摂取した場合胃のなかで化学反応を起こし発癌物質となります。特に魚の焦げはニトロサミンなどの発癌物質として知られており、魚の焦げは要注意です。魚を上手に食べる人で焦げた皮まで食べる人を見ますが、これは良いことではありません。少しきたない食べ方ですが、魚の焦げは食べないようにして下さい。最近話題になっていますダイオキシンも発癌物質です。これは焼却炉の中で有機物と塩素が反応して作られ、特にプラスチックを燃やす時に多量に排出され、空気中に浮遊しやすくまた体内で脂肪に蓄積しますので現在行政上も問題となっている物質です。
最近は医学の進歩により癌遺伝子が解明されてきています。胃癌には分化型の癌と未分化型の癌がありますが、未分化型の癌は遺伝的背景が特に強いといわれており、1等親の人では対照群の人に比較してその胃癌の発症は7倍にもなるとの報告があります。ですから親が胃癌で未分化傾向の強い癌である場合はその子は厳重なチェックが必要ですので病院で検査を受けることをお勧めします。
次にタバコの話に移ります。タバコはどの癌に対しても発癌因子、あるいは助長因子として働いています。タバコの煙に含まれるニトロソアミン、ベンズパイレンなどが発癌因子になります。これらは唾液に溶け吸収されたり、肺から吸収され血中から消化管に至る経路が考えられています。またこのタバコは発癌の助長因子としても作用します。喫煙はその喫煙開始年齢が重要であり、その年齢が早いほど罹患率が高いといわれています。これはタバコの本数と関係ありません。
塩分については前回も述べましたが、助長因子として働きます。これは塩分が胃の粘膜を破壊することにより、発癌物質が作用しやすい環境を作るためです。
一方、緑色野菜、果物、牛乳、お茶、みそ汁などは癌抑制因子として働きます。緑色野菜、果物には多くのビタミンが含まれており、ビタミンC, Eは胃のなかでニトロソ化合物のできるのを抑制する働きがあります。またビタミンAも発癌の抑制因子として働きます。みそ汁を作る大豆にはプロテア−ゼインヒビタ−という癌抑制因子が含まれています。牛乳を毎日飲む人はその発癌危険度は飲まない人の0.7位の確率になります。牛乳は食道、胃の粘膜を脂肪成分により保護し発癌因子の接触を防御します。
これらの事実から食生活で注意すべきことは魚の焦げを食べない、毎日牛乳、みそ汁を飲む、また緑色野菜を多く摂ることが胃癌の防止に役に立ちます。
次回は胃癌の一般的な概念についてお話しします。