市立室蘭総合病院  

 

胃癌と外科治療 
    (その1:胃癌の概念と疫学)

外科医:渋谷 均

 胃癌が日本人に多いことは皆さんご承知のことと思います。最近では大腸癌、乳癌、肺癌などが増える傾向にあり、胃癌は一見陰をひそめているかのようですが、実は胃癌の罹患率は依然として減少していません。今回のコラムでは胃癌の疫学から最近の胃癌に対する治療まで5回位にわけて説明していきます。第1回目は胃腫瘍の概念と疫学について述べることにします。
 胃にできる悪性腫瘍のうち95%は胃癌です。この他悪性腫瘍といわれるものに悪性リンパ腫、平滑筋肉腫がありますが、これらは比較的稀な腫瘍です。
 胃癌は数年前まで癌死亡の1位でしたが、今は肺癌で亡くなる人々の数のほうが増えました。しかしながら、毎年5万人の人々が今もなお胃癌で亡くなっています。この数値は死亡者総数の5.4%にもなります。
日本における胃癌の好発地域は日本海側の東北地方、秋田、山形、富山などで、また低率な地方としては沖縄、神奈川、鹿児島などがあげられます。その理由として日本海沿岸地方は古くからの米作地帯であり、また豪雪のため冬の農閑期が長く、米を主食に塩漬けや味噌漬けの野菜、あるいは塩分の多い魚の干物などを副食にしているといった生活習慣や環境があります。穀物を多く摂取すること、また塩分の多い食生活は胃癌の危険因子になります。一方沖縄などでは四季を通じて新鮮な野菜、魚介類に恵まれ、米飯偏食を避けた食生活が好影響を与えていると考えられています。
 胃癌の発生率を世界的に見てみますと、日本、イタリア、チリ、ポルトガルなどは胃癌の発生率が高く、またアメリカ、ニュ−ジ−ランド、オ−ストラリアなどではその発生率は少ないと言われています。胃癌の発生率の高い国は穀類に主食を求めているのに対し、少ない国は肉類、乳製品にその主食を求めていることが解ります。この事実は大腸癌ではその発生率が逆転します。すなわち脂肪の摂取量の多い欧米人に大腸癌の発生率が高いことです。このことについては近いうちに大腸癌シリ−ズでまた述べます。
 職業と胃癌の発生率をみますと金属材料製造業、農業従事者、鉱山労働者などではその発生率が高いことが知られています。この相対危険度は他の職種に比べて1.68と高くなっており、さらにそれらの人々が喫煙をする場合では2.95と高い数値になります。
重金属、農薬などの物質の影響が考えられます。
 これまでのお話で食事の内容が胃癌の発生に大いに関与していることがお解り頂ける
と思います。次回は食事、環境因子と胃癌の発生のお話をします。

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